1. die Übersicht (概要)

VW/Audi車には、VIN(Vehicle Identification Number)とは別に車種を表現する記号として、"Typ"コードが付与されています(日本では「モデルタイプコードナンバー」と表記されます)。この"Typ"コードは、"Käfer"、いわゆる「タイプ1 ビートル」の時代から連綿と受け継がれてきた由緒正しきコードです。

"Passat"、"Golf"などのように、それぞれの車種に正式な商品名として固有名詞が与えられるようになってから以降も、この"Typ"という概念はVW/Audi車(厳密には統合後のSkoda、Seat車を含む)の血統や属性を示すものとして使われ続けていることにぜひいちど着目してみてください。単なる記号に過ぎないこれらのコードから、かのメーカーの方向性や戦略、あるいは「想い」のようなものが年代別に浮き上がってくること請け合いです。

なお、ここで示す"Typ"コードとは、第二次世界大戦後の"Volkswagenwerk GmbH"および現在のVolkswagen AGが自らの製品に付与しているものを指します。大戦中の"Kdf"派生車種(有名どころでは"Typ82 Kübelwagen"や"Typ166 Schwimmwagen")が持つ"Typ"とはまったくの別ものであることに注意してください。同列に扱うと規則性を類推できなくなってしまいます。

2. das Gefüge (構成)

"Typ"コードは6桁の英数字で構成されています。1桁目から4桁目を「主コード」、5桁目と6桁目を「補足コード」と呼びます。"Typ"コードによる車種識別は1960年代後半には既に確立されており、その基本的なスタンスは2010年の現在でも変わりませんが、時間の経過とそれに伴う車種の増減や分類上の優先順位の変化などにより、その都度後付けで細かな規則が変更されたり追加されたり、あるいは例外が発生したりしており、必ずしも一意に解釈が可能なものではありません。このため、ここでは現在用いられている規則と思われるものをベースに説明するものとします。

・1桁目：Typ (タイプ)

空冷Volkswagenの世界で日常的に使われている、「タイプ1」、｢タイプ2｣、「タイプ3」とまったく同義です。一般的な用語でいうところの「セグメント」あるいは「プラットフォーム」に近いニュアンスでの分類と思ってください。どうやら、以下のような考えかたにおおよそ基づいているようです。

1. 1 ： "Kompaktklasse"(Cセグメント) Käfer → Golfシリーズ
2. 2 ： "Nutzfahrzeug"(商用車) "Transporter"シリーズ、LTシリーズなど
3. 3 ： "Mittelklasse"(Dセグメント) "Typ3"(VW1500/1600) → Passatシリーズ
4. 4 ： "Obere Mittelklasse"(Eセグメント) "Typ4"(VW411/412) → K70 → Audi 100シリーズ
5. 7 ： "Großraumlimousine"(大型乗用車) T4以降の"Transporter"シリーズ、Sharan、Touaregなど
6. 8 ： "Mittelklasse"(Dセグメント) Audi 80シリーズ

"Typ1"、"Typ2"、"Typ3"の位置づけは空冷時代とまったく変わらないことがわかります。"Typ4"と"Typ8"は統合後のAudiに引き渡されていて、VW側ではそれ以降使用していません。逆にAudi側では大分類の階層をふたつしか貰えなかったためセグメント単位で1桁目を使うことができず、現在では「A4以下」を"Typ8"、「A6以上」を"Typ4"と分類しているようです。"Typ5"以降は1960年代時点で該当する車種が存在しなかったため後年の「後付け」で用いられることが多く、それゆえ規則性が希薄になっています。唯一の例外がT4登場時に設定されたと思われる"Typ7"。"Typ9"では、Porscheに遠慮してか2桁目に数字を使用せず、英字のみを採番している模様。

・2桁目：Modell (モデル)

「タイプ」別に分類したものを更に細分化するために用いられる項目です。1980年代前半までは同一プラットフォームでボディ形状が異なるもの毎にコードが与えられていましたが、プラットフォームを共有する別の車種が増加したこと、モデルチェンジによる「世代」の発生などにより、現在では「世代」を示すものに変化しているようです。数字(0～9)、英字(A～Z："I"、"O"、"Q"は使用しない)から逐次採番されますが、必ずしも昇順または降順で採られるわけではなく、「空いている」記号を使うことになっているようです。記号は"Typ"内においてユニークで、再利用は行われていません。上に挙げた例では、「第5世代のGolfシリーズ」であることが示されています。

・3桁目：Version (バージョン)

「モデル」別の分類をさらに細分化するための項目です。本来はドアの枚数やハンドル位置といった、「ボディ形状以外で外見上識別可能な装備の違い」を表現する桁でしたが、2桁目に「世代」が持ち込まれたことで現在では玉突きでボディ形状を示すものとして使われるようになりました。採番規則は一定ではないのですが、少なくとも1990年代以降の乗用車では、以下に示すような法則性が認められます。

1. 1 ： "Fileßheck"(ハッチバック)
2. 2 ： "Limousine"(セダン)
3. 3 ： "Coupe"(クーペ)
4. 5 ： "Avant/Variant"(ワゴン)
5. 7 ： "Cabriolet"(カブリオレ)
6. 8 ： "Limousine, Lang"(ロングタイプのセダン)
7. 9 ： "Roadster"(ロードスター)

1桁目あるいは2桁目で独立したコードが振られている場合は、この限りではありません。Touran、Touareg、A5 Sportbackなどのように従来の区分に収まらないボディ形状の車種が登場すると、その都度新しい記号が割り当てられます。加えてフェイスリフトに関してもこの桁で表現することになっているようで、その際には単純に該当グループ内で未使用の記号を用いるため、この項目単独ではほとんどなにを指しているのかわかりません。上の例では、「第5世代Golfシリーズのハッチバックモデル」、すなわちGolfそのものを示します。ここが"2"ならJetta、"5"ならGolf Variantになります。"Typ"コードの3桁目までが明らかになれば、一般的に謂うところの「車種」と「世代」がわかることがご理解いただけますでしょうか。

・4桁目：Modell-Index (モデルインデックス)

同一「車種」内でのモデルバリエーションを示します。"Ausstattungslinie"(トリムレベル)、"GTI"や"R32"のような特化モデル、特別仕様車を識別しています。モデルバリエーションは車種毎に異なるので個別に採番され、通常は"0"から昇順に付与されていくようです。第5世代Golfでは以下のとおり。

1. 0 ： Trendline
2. 1 ： Comfortline
3. 2 ： Sportline
4. 3 ： GTI
5. 4 ： R32　・・・(以下後続あり)

・5桁目：Motor (エンジン)

Datenträger上には別途「エンジンコード」が記されておりますのであまり意味はありませんが、搭載エンジンを略号で示します。車種によって搭載が可能なエンジンは異なりますので、車種単位で個別に採番されます。したがって車種が違えば例えおなじ排気量おなじ出力のエンジンを載せていても、この桁の記号が一致するとは限りません。上の例では147kW/200PSの2.0 TFSI(AXX)を示します。

・6桁目：Getriebe (トランスミッション)

こちらもDatenträger上に別途明記されているのですが、搭載するトランスミッションの種類を表示する項目です。5桁目同様、選択可能なトランスミッションは車種により異なるため、車種毎に個別のコード体系を持ちます。上に挙げた例での"3"は"DSG"であることを示しています。

3. das Nachtrag (補足)

"Typ"コードの1桁目、2桁目は、「車種」を示すものとしてVIN(Vehicle Identification Number)の7桁目、8桁目にそのまま代入されています。3桁目が反映されないのは、そもそもVIN側で車種を示すコードを2桁しか確保していなかったこと、VIN制定当時の"Typ"コード採番規則では2桁目までで正確に車種まで指し示すことができていたこと、などの理由によると思われます。ただし、「"Typ"コードの1桁目、2桁目＝VINの7桁目、8桁目」という法則性は2008年以降のVW車では崩れつつあるようです(Passat CC："Typ"は"357"、"VIN"では"3C"、6代目Golf："Typ"は"5K1"、"VIN"は"1K")。

"Typ"コードは多種多様な製品群を「系統」別、「世代」別に分類するという点において、なかなかよく考えられた仕組みです。しかしながら、将来への備えという観点がいささか不足しており、後年発生した懸案を本来のルールを弾力的に解釈することで対応してきたため、半世紀近くに及ぶ運用の結果「わかりやすさ」が失われてしまったこともまた事実であるように思われます。こうした点を踏まえ、近年VWグループ内では、「メーカー」、「セグメント」、「世代」、「ボディ形状」という切り口を英字2桁プラス数字3桁で分類し直そうとする試みがなされているようです。ただ、"Typ"(1桁目)、"Modell"(2桁目)のコードはパーツ管理などのシステムにも浸透しておりますので、すべてが新しい体系に置き換えられるまでにはまだ時間を要するものと推測されます。

4. die tabellarische Übersicht (一覧表)

- ELSA(ELektronisches Service Auskunftssystem）V3.0 のデータを編集/再構成。
- 3桁目が"*"表記のものは、複数コードを便宜上省略しているものを示す。
- 3桁目"Version"コードを同一車種/ボディタイプで複数持つものに関しては、代表としてLHDモデルのコードを記載。
- "von"、"vis"で示したのは「生産年度(イヤーモデル)」（発表年ではない）。